ものづくり・研究

時計修理技能士

とけいしゅうりぎのうし

腕時計や懐中時計の故障を調べ、精密な部品を分解・洗浄・交換・調整して、正確に時を刻む状態へ戻す技能職。機械式時計の脱進機やぜんまい、電池式時計の回路を扱い、修理後の精度と防水性も点検する。

修理台で片眼ルーペを着けた男性の時計修理技能士が、保持台に載せた腕時計の機械部分をピンセットで調整している。
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はじめに

小さな腕時計の中にある歯車やばねを直す仕事です。時計を分解して汚れを洗い、いたんだ部品を交換し、また組み立てます。修理が終わったら、一日にどれくらい時間がずれるかも調べます。部品が手に入らない古い時計では、形や動きを確かめながら、できるだけ長く使えるように工夫します。

2050年の見通し

2050年編集部の見立て

2050年の収入が、この職業の今の収入と比べてどう変わりそうかを示します。物価の上昇を差し引いた実質の変化です。

今の年収約458万円参考値:公的な資料から計算した目安
2050年(物価の上昇を除いて)ほぼ変わらない幅:下がる〜上がる
収入
古い機械式時計を直せる熟練者の希少価値は高まり得る一方、一般的な時計修理は買い替えと競争する。部品代と作業時間、工房の集客力も収入に影響するため、実質横ばいを中心とした。
需要
機械式時計の長期修理は専門技能を必要とするが、低価格品や電子時計の交換需要が定型修理を減らし得る。時計の種類と地域で差が大きく、全体では横ばいを中心とした。
人による差
人による差が広がる

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今の時計修理技能士の仕事

今
  • 時計の歩度測定と不具合診断歩度測定器で時間の進み遅れや姿勢差を測り、ぜんまい、テンプ、電気回路など故障箇所を絞る。
  • 機械式ムーブメントの分解と洗浄針と文字盤、歯車や脱進機を傷つけずに取り外し、専用の洗浄液で古い油や汚れを落とす。
  • 摩耗部品の交換と注油軸の摩耗や歯車の欠けを調べ、適合する部品を選び、指定された箇所へ少量ずつ時計用油を差す。
  • テンプの調整と精度確認組み上げた時計を複数の姿勢で測定し、調速機構を調整して日差や動作の安定を確かめる。
  • ケースの密閉性点検と修理記録パッキンを点検し、機種の仕様に合う防水試験と最終検品を行って交換部品や整備内容を記録する。

2050年、仕事はどう分担される?

2050年編集部の見立て

業務ごとに、2050年にだれが主に担いそうかを3つに分けました。職業そのものが「なくなる確率」ではありません。

AI・ロボットが中心

  • 受付時の型式照合と故障履歴の検索 確からしさ:高 部品の図面や過去の症例から型式に応じた注意点を探す作業は検索の自動化が進みやすい。ただし記録のない旧型には例外がある。

AIと協働

  • 歩度測定結果の比較と調整候補の提示 確からしさ:中 各姿勢の計測値から調整候補を提案できても、油切れや軸受けの摩耗など実物の状態を見なければ原因を決められない。

人が中心

  • 微細な歯車と脱進機の分解・組立 確からしさ:中 量産品の一部は機械化できるが、世代や損耗が異なる時計を傷つけずに扱う作業は熟練技能が必要になりやすい。
  • 廃番部品の適合と修復方法の判断 確からしさ:高 現物しか残っていない古い部品では寸法の差や修復の可逆性を判断し、交換するか製作するかを持ち主と相談する必要がある。
  • 修理後の防水性と精度の最終保証 確からしさ:中 検査は自動化しても、数値が機種の仕様に合うか、修理で価値を損なっていないかの確認は担当者の責任となる。

2050年の一日

2050年架空の一日

2050年、時計修理技能士の一日(架空)

五十代の時計修理技能士・隆は、店の奥で古い機械式腕時計を耳元に近づけた。持ち主は『父から受け継いだ時計が、夜のうちに止まる』と話していた。外観に大きな傷はない。隆が歩度測定器に載せると、文字盤を上にしたときと横にしたときで時間の進み方が大きく違った。

小さなねじを専用の皿へ順番に置き、針と文字盤を外す。拡大鏡の下では、ぜんまいの力を伝える歯車の軸にわずかな摩耗が見えた。修理支援の道具は『部品交換』を勧めたが、型番を調べても同じ部品はもう作られていない。別の型の部品なら寸法が近い。それでも隆は、古い機構に余計な負担をかけないか確かめるまで使わないと決めた。

昼過ぎ、図面と現物を測り比べた結果、摩耗した軸の受け側を修復する方法が見つかった。隆は持ち主へ電話し、交換できない理由と、修復しても新品の精度には戻らない可能性を伝えた。了承を得てから部品を整え、洗浄した歯車を一つずつ戻し、必要な場所だけに油を差す。夕方の歩度検査では、どの姿勢でも停止せずに動いた。

翌日まで続ける精度試験の記録を始め、隆は作業台の上の古いねじを眺めた。時計を直すのは、機械を無理に新品へ近づけることだけではない。どんな手を加えたかを残し、次に修理する人へ伝える仕事でもある。持ち主の思い出を壊さず、これからも時を刻めるようにするためだ。

収入

平均の年収だけでは、その仕事の収入は分かりません。働き方や経験、地域、独立しているかどうかで大きく変わります。

今の年収

今参考値

約458万円(年収・公的な資料から計算した目安)

資料
令和7年賃金構造基本統計調査(job tag『計器組立』掲載の年収)
調査年
2025年
対象
job tag『計器組立』が属する『計量計測機器・光学機械器具組立工』等の職業分類に対応する一般労働者。時計修理職の平均ではない。
税・賞与
税・社会保険料を引く前、賞与を含む雇用労働者の年収
計算方法
時計修理技能士だけの全国年収統計が確認できないため、微細な機器の組立・精度確認を行うjob tag『計器組立』の2025年全国年収457.5万円を、精密機械を扱う雇用技能職の近接参考値として採用した。
  • 457.5万円は計器を製造・組み立てる職業の2025年全国統計であり、腕時計や懐中時計の修理技能士の平均ではない。
  • 新しい機器の工場組立と、依頼ごとに分解・修復する時計修理は業務内容と価格決定の仕組みが異なる。
  • 時計店の雇用技術者、メーカーの修理部門、独立した工房では給与・事業所得や修理単価が大きく違う。
  • 独立工房の修理代金の売上から部品代、家賃、設備費を引いた事業所得は、この賃金統計には含まれない。

収入を動かすもの

2050年編集部の見立て

AIで仕事が速くなっても、収入が上がるとは限りません。何が収入を押し上げ、何が押し下げるかを並べました。

  • 機械式時計の修理と長期使用上がる方向

    気に入った時計を何十年も使いたい人は、直せる職人を必要とします。

    大人向けの詳しい説明

    機械式時計のオーバーホールや廃番部品の修復は、単純な新品交換では代替しにくく、熟練者の価格交渉力を支え得る。

  • 低価格時計と電子機器の買い替え下がる方向

    安い時計や電子機器は、直すより新しいものを買う人もいます。

    大人向けの詳しい説明

    電子時計・ウェアラブル端末の流通や交換サービスの普及は、地域の一般時計店に入る定型修理件数を抑える可能性がある。

  • 熟練技能の継承と資格評価上がる方向

    細かい歯車を直せる人を育てることが、古い時計を守る助けになります。

    大人向けの詳しい説明

    国家検定の時計修理技能士や地域の機械時計士技能評価など、修理と精度調整の技能を評価・継承する仕組みがある。

  • 専用部品・工具と修理時間どちらにも動きうる

    古い時計の部品が手に入らないと、直すのに時間とお金がかかります。

    大人向けの詳しい説明

    メーカーごとの特殊工具と部品供給の差が修理可能性と採算を左右する。高額修理ができても材料費と作業時間を引けば実質所得は伸びないことがある。

2050年の3つのシナリオ

2050年編集部の見立て

未来の収入はひとつの数字では言えません。条件ごとに分けて、どうなれば収入がどう動くかを考えます。

  1. 長く使う時計の修理文化が定着

    条件機械式時計の愛好者が部品修復やオーバーホールに適正な費用を払う習慣が広がる。

    起きそうなこと廃番部品の修復や難しい調整を担う熟練者の単価は守られやすいが、材料と設備費の上昇が所得を抑える可能性もある。

  2. 安価な時計の修理は交換中心になる

    条件低価格の電子時計とウェアラブル端末は修理より新品交換が中心になり、専業修理店の数が減る。

    起きそうなこと一般的な電池交換や定型修理は減り、難しい機械式修理へ仕事が集中して技能差による所得の開きが大きくなる。

  3. 部品供給が細り修復が高難度化

    条件古い機構の交換部品が不足し、互換部品の製作や形状の再現を工房内で行う必要が増える。

    起きそうなこと専門技能の希少価値は高まるが、作業時間が長くなり、すべての工房で利益が増えるわけではない。

働き方と暮らし

2050年編集部の見立て

人手は足りる? 余る?

時計修理には、新しい時計の電池交換や定型調整から、古い機械式時計の分解・注油・部品修復まで幅がある。機械式時計の修理技能を評価する制度が現に存在し、長く使いたい時計を維持するための専門技能は残ると考えられる。高価な時計の修復は都市部の専門工房へ集まりやすい。

一方、安価な時計や一部の電子機器は交換で済ませる需要が増え、一般的な修理依頼が減る可能性がある。古い時計を扱える技能者の不足で単価が上がっても、修理件数全体が増えるとは限らない。需要は横ばいを中心とし、地域や修理対象による差が広がる見通しとした。

働き方

時計販売店の修理部門、メーカーのアフターサービス、専門修理工房などで働く。機械式時計の仕事は長時間の集中が必要な座り仕事が多く、部品をなくさない作業環境、拡大鏡、ピンセット、歩度測定器などを使う。受付から精度確認まで数日以上を要する修理もある。

独立工房では修理見積もり、部品調達、納期説明、顧客への保証対応も担う。修理代金が高くても部品代や設備費がかかるため、売上と所得は異なる。専門部品の入手はメーカーや機種により異なり、難しい修理を引き受けられるかが働き方と収入を左右する。

この仕事に近づくには

今

進路と資格

  1. 時計の機構と精密作業の基礎を学ぶ時計修理の専門学校や職業訓練、修理工房の見習いなどで、機械式の輪列・脱進機、クオーツ式の基本回路、工具の扱い方を学ぶ。大学卒業は一律の要件ではない。
  2. 国家検定の時計修理技能士を目指す厚生労働省の技能検定制度には『時計修理』職種があり、実技と学科の検定に合格すると等級に応じて技能士を名乗れる。受検資格と実施予定は都道府県の窓口で確認する。
  3. 機械式時計のオーバーホールと精度調整を磨く修理工房で分解・洗浄・注油・組立、歩度調整を積み重ねる。地域には時計修理技能を別途評価する制度もあるが、国家検定とは区別する。

今から伸ばしたい力

  • 極小のねじや歯車を傷つけずに扱う手先の精密さ
  • 脱進機と調速機構の構造を理解して故障箇所を探す力
  • 歩度測定器の数値と実物の摩耗状態を照合する力
  • 時計用油を適切な場所へ必要な量だけ使う技能
  • 修理できる範囲と残る不具合を持ち主へ具体的に説明する力

出典と前提

最終確認日
2026年11月1日

出典

予測の前提

  • 2050年も修理可能な機械式時計を長く使う顧客が一定数存在する。
  • 低価格の電子時計と高級機械式時計では修理するか交換するかの判断が分かれる。
  • メーカーの部品供給と熟練技能者の人数が地域の修理価格を左右する。

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ラベルの意味や予測の限界は「予測の読み方」で説明しています。