歯科医師
しかいし
むし歯や歯周病の診断と治療、抜歯、入れ歯やかぶせ物の作製を通して、歯と口の健康を守る仕事。歯科衛生士や歯科技工士と連携し、予防の指導や在宅・施設への訪問診療も行う。

はじめに
歯科医師は、むし歯を治したり、歯ぐきの病気を防いだりして、口の健康を守る仕事です。歯をけずってつめものをしたり、ぬけた歯のかわりに入れ歯をつくったりします。歯みがきのしかたを教えたり、歯医者に通えないお年よりの家をたずねて治療したりすることもあります。おいしく食べて話せる毎日を支えます。
2050年の見通し
2050年の収入が、この職業の今の収入と比べてどう変わりそうかを示します。物価の上昇を差し引いた実質の変化です。
- 収入
- 保険診療の価格は診療報酬で公的に決まり、需要があっても医院が自由に値上げできない。一方、開業歯科医師の引退で担い手が減る地域では、残る歯科医師の患者数や交渉力が収入を支え得る。自費診療の比重や勤務・開業の違いで差が大きく、中心は横ばいと見る。
- 需要
- 人口減少と子どものむし歯の減少は治療件数を押し下げるが、歯を多く残す高齢者の管理や訪問歯科診療の必要は増えている。歯科医師数そのものも減り始めており、総量は横ばいを中心に置き、仕事の中身と地域ごとの差が大きく変わると見る。
- 人による差
- 人による差が広がる
今の歯科医師の仕事
- う蝕(むし歯)の診断と処置エックス線写真や目視でむし歯の深さを確かめ、麻酔をして削り、詰め物をする。神経まで進んだ場合は根の治療を行う。
- 歯周病の検査と管理歯ぐきの溝の深さや出血を測り、歯科衛生士と歯石の除去や磨き方の指導を進め、定期的に経過を見る。
- 入れ歯・かぶせ物の型取りと調整歯や歯ぐきの型を取り、歯科技工士が作った入れ歯やかぶせ物を口に合わせて、かみ合わせを細かく削って整える。
- 抜歯などの口腔外科の処置親知らずや保存できない歯を抜き、出血や持病の薬に注意しながら傷の治りを確認する。
- 訪問歯科診療と口腔機能の管理通院が難しい高齢者の自宅や介護施設を訪ね、入れ歯の調整や口の清掃、かむ・飲み込む力の確認を行う。
2050年、仕事はどう分担される?
業務ごとに、2050年にだれが主に担いそうかを3つに分けました。職業そのものが「なくなる確率」ではありません。
AI・ロボットが中心
- 保険請求(レセプト)の作成と点検 確からしさ:中 診療報酬の算定は決まったルールに沿う作業で、すでに電子化が進んでいる。記録から請求の下書きと不備の指摘は自動化しやすく、最終確認は医院が担う。
AIと協働
- エックス線・口腔内画像の読影補助 確からしさ:高 今も画像はデジタルで保存されており、むし歯や骨の減り方の候補を示す技術は進んでいる。見落としを減らす助けになるが、診断と治療方針を決める責任は歯科医師に残ると考える。
- 口腔内スキャンによる型取りと、かぶせ物の設計 確からしさ:中 光で歯の形を読み取る機器と、データから削り出す装置はすでに使われている。設計案は自動で出せるようになっても、かみ合わせの最終調整は患者の口で確かめる必要がある。
人が中心
- 歯を削る・抜くなどの口の中の処置 確からしさ:中 狭く動く口の中で、患者の痛みや反応を見ながら器具を扱う作業である。機器による支援は進み得るが、2050年も歯科医師の手と判断が中心になると見立てる。
- 訪問先での食べる・飲み込む機能の評価 確からしさ:中 体を起こせる角度や食事の形、家族や介護職の事情は家ごとに違う。むせ方や口の動きを実際に見て、本人と周りの人に合わせた助言をする仕事は人に残りやすい。
2050年の一日
2050年、歯科医師の一日(架空)
「先生、きのうの夜、歯みがきさぼっちゃった」。午後5時、ランドセルを背負ったまま診療台に座った小学4年生の蒼が、先に白状した。歯科医師の美緒は笑って、口の中を小さなスキャナーでなぞる。数秒で歯並びの立体画像が画面に浮かび、前回と比べて変化のあった場所に印がつく。奥歯のみぞに、むし歯になりかけた白い部分が一つ。美緒は手鏡を渡し、「ここは削らずに、フッ素と歯みがきで戻せるかもしれないよ」と指で示した。
子どものむし歯は、美緒が歯科医師になったころよりさらに減った。夕方の予約は、削る治療より、歯並びやかみ方の育ちを見守る検診が多い。画像の読み取りは道具が先に下書きしてくれるが、本人がどこまで自分で磨けるかは、話してみないと分からない。
同じ日の午後2時、美緒は歯科衛生士と訪問用の車で、山すその団地に住む88歳の女性を訪ねていた。ベッドの横に持ち運べる治療器具を広げ、合わなくなった入れ歯の内側を削って整える。ここでは自動の判定は役に立ちにくい。体を起こせる角度、口を開けていられる時間、むせやすい食べ物。娘やヘルパーの話を聞きながら、一つずつ確かめた。最後にとろみのついたお茶を一口飲んでもらい、のどの動きを指先で確かめると、女性は「これでせんべいが食べられるかね」と笑った。
午後7時、最後の患者を見送り、美緒は二人のカルテを並べて開いた。片方はこれから歯を育てる人、もう片方は残った歯で食べ続けたい人だ。道具が増えても、口の中を見て、その人の暮らしに合わせて手を動かす仕事は変わらない。来週の訪問予定に「せんべいの硬さを確かめる」と書き足した。
収入
平均の年収だけでは、その仕事の収入は分かりません。働き方や経験、地域、独立しているかどうかで大きく変わります。
今の年収
約1,063万円(年収・平均値)
- job tag歯科医師の全国掲載値1,062.7万円。平均値であり、個々人の給与や手取り額を示すものではない。
- 歯科医師の多くは診療所で働き、その中には自分で開業した院長が多い。院長の収入は事業所得で、診療報酬の売上から人件費・材料費・設備の返済などを差し引いたものになるため、この雇用者の賃金統計とは性質が異なる。
- job tagに示される平均年齢は39.6歳で、医療施設で働く歯科医師全体の平均年齢(2024年末で53.4歳)より若い。統計が主に勤務医の姿を表していることに注意が必要だ。
- 賃金構造基本統計調査は一定規模以上の事業所が対象で、従業員の少ない小さな歯科医院で働く人はすべてが含まれるわけではない。
- 大学病院の勤務、矯正や口腔外科などの分野、保険診療と自費診療の割合、地域によって収入は大きく異なる。臨床研修中の処遇は研修先によって違う。
収入を動かすもの
AIで仕事が速くなっても、収入が上がるとは限りません。何が収入を押し上げ、何が押し下げるかを並べました。
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診療報酬(保険点数)と自費診療どちらにも動きうる
保険で受ける治療の値段は国が決めています。それ以外の治療の多さでも収入が変わります。
大人向けの詳しい説明
保険診療の価格は診療報酬で公的に決まり、患者が増えても医院が自由に値上げできない。2024年度の改定では歯科衛生士などの賃上げに充てる評価が設けられたが、歯科医師はその対象外とされた。自費診療の比重や地域の競争が収入を分ける。
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歯を残す高齢者と、むし歯の少ない子どもどちらにも動きうる
子どものむし歯は減り、お年よりは自分の歯が多く残るようになっています。
大人向けの詳しい説明
80歳で20本以上の歯を保つ人は2人に1人以上に増えた。残った歯の歯周病管理や入れ歯の調整、訪問歯科の必要は高まる一方、人口減少と予防の進展で削って詰める治療の件数は減り得る。仕事の中身が変わることが、収入にどう表れるかは報酬の評価次第である。
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開業歯科医師の高齢化と地域差どちらにも動きうる
歯医者さんの数は、町によって多いところと少ないところがあります。
大人向けの詳しい説明
2024年末の歯科医師数は前回調査より減り、診療所で働く歯科医師の平均年齢は55.2歳である。地方では引退で担い手が減り、残る歯科医師の患者が増える可能性がある一方、都市部では医院同士の競争が続く。
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口腔内スキャナーとデジタル技工どちらにも動きうる
歯の形を光で読み取る機械が広がり、型取りの方法が変わってきています。
大人向けの詳しい説明
型取りやかぶせ物の設計・削り出しのデジタル化は、診療の手間や患者の負担を減らし得る。ただし機器の購入費は医院の負担で、効率化の分が歯科医師の収入、設備投資、患者の負担軽減のどこに回るかで影響は変わる。
2050年の3つのシナリオ
未来の収入はひとつの数字では言えません。条件ごとに分けて、どうなれば収入がどう動くかを考えます。
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「通えない人を診る歯科」が広がる
条件訪問歯科診療や、かむ・飲み込む機能の管理が診療報酬や地域の医療・介護の連携で評価され、在宅や施設での歯科の役割が大きくなる。
起きそうなこと高齢者向けの仕事が増え、訪問や口腔機能の管理を担える歯科医師の収入は支えられる可能性がある。移動や多職種との連絡に時間がかかる点が課題になる。
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保険と自費の差が広がる
条件保険診療の点数の伸びが抑えられる一方、インプラントや矯正、見た目を整える治療など自費診療の比重が都市部を中心に高まる。
起きそうなこと平均は大きく変わらなくても、自費診療の多い医院や分野と、保険診療が中心の医院との間で収入差が広がる可能性がある。
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個人の診療所が集約される
条件開業歯科医師の高齢化で引退が進み、複数の歯科医師が勤める法人の医院や、地域の拠点となる歯科への集約が進む。
起きそうなこと勤務医として働く人が増え、勤務時間や収入は安定しやすくなる一方、開業による大きな収入の道は狭まるかもしれない。集約から外れた地域では通院の不便が残り得る。
働き方と暮らし
人手は足りる? 余る?
厚生労働省の「医師・歯科医師・薬剤師統計」によると、2024年末の歯科医師は103,652人で、2022年から1.5%減った。85.6%が診療所で働き、診療所の歯科医師の平均年齢は55.2歳と高い。子どものむし歯が減る一方、80歳で20本以上の歯を保つ人は2人に1人以上となり、残った歯の歯周病管理や入れ歯の調整、通院できない人への訪問歯科診療の必要が高まっている。在宅で歯科医療を受ける患者の9割以上は65歳以上だが、訪問歯科診療を行う歯科診療所は2割程度にとどまる。
編集部の見立てでは、人口が減るため2050年に治療の総量が大きく伸びるとは考えにくいが、仕事の中身は「削って詰める」から「歯を長く保つ管理」と「通えない人のもとへ出向く診療」へ移っていく。開業医の引退が進めば、地方では通える範囲に歯科医院が少ない地域が出る可能性があり、都市部の競争と地方の担い手不足が同時に起こり得る。2050年の歯科医師の必要人数を示す公的な推計は確認しておらず、人口や制度、診療所の集約の進み方で状況は変わる。
働き方
歯科医師の多くは歯科診療所で働く。自分で開業して院長として医院を経営する人と、歯科医院や病院に雇われる勤務医がいる。学校や仕事帰りの患者に合わせて夕方以降や土曜日も診療する医院が多く、予約制で一日に多くの患者を診る。大学病院や総合病院の歯科口腔外科では、手術や入院患者の診療、がん治療や手術の前後の口の管理なども担う。
細かい手作業を同じ姿勢で続けるため、目や首・腰への負担があり、感染対策も欠かせない。開業する場合は診療台やエックス線装置などの設備投資、歯科衛生士や受付スタッフの雇用、経営の判断も仕事に加わる。訪問歯科診療では持ち運べる機材を車に積んで自宅や介護施設を回り、家族やケアマネジャー、介護職と予定や情報をやりとりしながら進める。
この仕事に近づくには
進路と資格
- 大学の歯学部(6年)歯学部・歯学科で6年間、体のしくみや病気、歯科の治療を学ぶ。臨床実習の前に共用試験を受け、大学病院などで患者の診療に参加しながら技術を身につける。
- 歯科医師国家試験歯学の正規の課程を修めて卒業すると受験資格が得られる。年1回の国家試験に合格し、厚生労働大臣の免許を受けて歯科医師になる。
- 臨床研修(1年以上)歯科医師法により、診療に従事するには大学附属病院や厚生労働大臣が指定した病院・診療所で1年以上の臨床研修を受けることが義務付けられている。その後、勤務医として経験を積み、開業や矯正・口腔外科などの専門分野をめざす道がある。
今から伸ばしたい力
- 口の中の狭い場所で器具を正確に動かす手先の器用さ
- 画像や検査結果から歯と骨の状態を読み取る力
- 痛みや怖さを抱える患者を落ち着かせ、治療を分かりやすく説明する力
- 歯科衛生士・歯科技工士・介護職と役割を分けて進める力
- 新しい機器や材料を学び、医院の経営も考える力
関連する職業
-
医療・福祉 医師 患者の症状や検査結果を調べ、病気やけがを診断し、薬や手術などの治療を行う。病院や診療所で、看護師などと協力して命と健康を守る仕事。
2050年の収入少し下がる -
医療・福祉 看護師 病院や診療所、訪問看護などで、患者の体調を観察し、療養生活を支え、医師の診療を補助する仕事。薬や医療機器を安全に扱い、本人や家族への説明、ほかの職種との連携も担う。
2050年の収入ほぼ変わらない -
医療・福祉 介護福祉士 高齢者や障害のある人が自分らしく暮らせるよう、食事、入浴、移動などの支援と生活上の相談を行う専門職。施設や在宅で働き、家族や医療職と協力して安全と尊厳を守る。
2050年の収入少し上がる
出典と前提
出典
- 歯科医師|職業詳細(職業情報提供サイト job tag)(厚生労働省)、2026年10月30日取得 仕事内容・就業の道・2025年の全国年収と平均年齢を参照
- 令和6(2024)年 医師・歯科医師・薬剤師統計の概況(厚生労働省)、2026年10月30日取得 歯科医師数の推移、診療所・病院別の従事者数と平均年齢を参照
- 歯科医師法(日本法令外国語訳データベースシステム)(法務省)、2026年10月30日取得 歯科医師国家試験の受験資格(第11条)と臨床研修(第16条の2)を参照
- 歯科衛生士の現状と今後の検討の進め方について(歯科衛生士の業務のあり方等に関する検討会 資料)(厚生労働省)、2026年10月30日取得 在宅歯科医療を受ける患者の年齢、訪問歯科診療を行う診療所の割合、8020達成者の状況を参照
- 令和6年度診療報酬改定と賃上げについて(歯科医療機関の場合)(厚生労働省保険局医療課)、2026年10月30日取得 賃上げに充てる評価の対象職種と、歯科医師の扱いを参照
予測の前提
- 2050年も保険診療の価格は公的な診療報酬で決まる仕組みが続く。
- 画像の読み取りや型取りのデジタル化は進むが、口の中の処置と治療の判断は歯科医師が担う。
- 高齢者が自分の歯を多く残す傾向が続き、訪問歯科診療や口腔機能の管理の必要が高まる。
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