IT・デジタル 想像の仕事
デジタル真正性鑑定士
でじたるしんせいせいかんていし
ニュースの写真や動画、音声が本物か、AIで作られたり手を加えられたりしていないかを、来歴の記録や解析の技術で確かめ、報道機関や裁判所、企業に結果を報告する仕事になりそうだ。
はじめに
今は、本物そっくりの写真や動画をコンピュータで作れるようになりました。そのため、ニュースで見た映像が本当にあったことなのか、見分けにくくなっています。写真や動画に残された記録や、光や音のわずかな違いを調べて、本物かどうか、どこが変えられたのかを確かめる仕事です。
今ある芽
実証や制度づくりが始まっていて、条件がそろえば広がりそうなものです。写真や動画の真偽の確認は、今は報道機関の一部の担当者や研究者、警察の専門部署などが中心に行っている。撮影や編集の履歴を記録する技術が広まり、裁判や取引で真正性の証明が求められる場面が増えれば、専門の鑑定を引き受ける職業として成り立ちそうだ。
- コンテンツの来歴を記録する国際標準写真や動画が「いつ・誰が・どう編集したか」を記録して確かめられる国際的な技術標準C2PAの仕様が2022年に公開された。記録が広く付くようになれば、それを読み解き、記録がない場合に別の方法で調べる人が必要になる。出典:C2PA Releases Specification of World's First Industry Standard for Content Provenance(C2PA (Coalition for Content Provenance and Authenticity))
- 発信者を確かめるオリジネーター・プロファイル日本でも、記事や広告の発信者が本物かを確かめられる「オリジネーター・プロファイル」技術の開発が進んでいると、総務省の白書で紹介されている。誰が出した情報かを確かめる仕組みづくりが、鑑定の土台になる。出典:令和5年版 情報通信白書(偽・誤情報対策:オリジネーター・プロファイル)(総務省)
2050年、どんな仕事をしている?
- 来歴記録の読み取り写真や動画に付いた撮影機器や編集の履歴を読み取り、記録が途中で切れていたり書きかえられていたりしないかを確かめる。
- 映像と音声の解析影の向き、口の動きと声のずれ、背景の雑音のつながりなど、作られた映像に出やすい不自然さを道具と目で調べる。
- 撮影者と現場への確認元の映像を撮った人や同じ場所にいた人に連絡し、ほかの角度の映像や当日の記録と照らし合わせる。
- 鑑定書の作成わかったこととわからなかったことを分けて書き、どの程度の確からしさで言えるのかを根拠とともに示す。
- 法廷や報道での説明裁判や記者会見で、専門用語をできるだけ使わずに鑑定の方法と結論を説明し、質問に答える。
2050年の一日
2050年、デジタル真正性鑑定士の一日(架空)
午後二時、地方新聞社の編集局から一本の動画が届いた。市長選を三日後に控えた候補者が、集会で対立候補を強い言葉でけなしている、という四十秒の映像だ。前夜からネットで広まっている。鑑定事務所を開いて十二年になる五十三歳の誠は、まず、動画に来歴の記録が付いていないことを確かめた。何度も保存し直されるうちに、記録が消えたらしい。
記録がないからといって、偽物とは限らない。誠は映像を一コマずつ送り、話す口の形と声の始まりを照らし合わせた。前半の三十秒は自然だった。だが残りの十秒は、唇が閉じているところで「ば」の音が鳴っていた。背景で流れていたはずの空調の低い音も、その十秒だけ途切れていた。
夕方、新聞社の記者を通じて、集会を撮影していた地元の住民に連絡がとれた。住民の端末に残っていた元の映像には、撮影機器の記録が付いており、問題の十秒にあたる場面で候補者は別のことを話していた。誠は二つの映像を並べて比べ、声の一部が差しかえられた可能性が高いと判断した。
夜、鑑定書を書いた。映像そのものは実際の集会で撮られたこと、後半の音声に手が加えられた跡があること、ただし誰が加工したかはこの鑑定ではわからないこと。言えることと言えないことの境目を、誠は三度書き直した。新聞社に送ったのは午後十一時過ぎだった。記事がどう書かれるかは編集局が決める。誠の仕事は、その判断の材料を正確に渡すところまでだ。
この仕事に近づくには
今からできること
- 中学校情報の授業で画像や音がデジタルで表されるしくみを学ぶ。ニュースを見たら、だれが最初に出した情報かを自分で確かめるくせをつける。
- 高校情報と物理(光や音の性質)を学ぶ。写真部や放送部などで撮影や編集を経験すると、加工でどこに跡が残るかを知る手がかりになる。
- 大学・専門学校情報工学や画像・音響の処理、メディアやジャーナリズムを学べる学部・学科に進む道がある。報道機関や情報セキュリティの会社などで経験を積んでから専門にする人も出てきそうだ。
今から伸ばしたい力
- 画像・動画・音声がデータとして記録されるしくみの理解
- 細かな違和感に気づく観察力
- わかることとわからないことを区別して書く力
- どちらの立場にもかたよらない公平さ
- 専門外の人に根拠をわかりやすく説明する力
近い「今の仕事」
この仕事に近いのは、今ある次の仕事です。今の年収や進路は、それぞれのページで見られます。
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クリエイティブ 記者 政治、経済、地域、文化などの出来事を取材し、証拠や複数の証言で事実を確かめてニュースにする仕事。会見の質問、資料の照合、記事の執筆と編集者による確認を経て、紙面や電子版で伝える。
2050年の収入少し下がる -
IT・デジタル 情報セキュリティエンジニア 企業や役所のコンピュータとネットワークを、不正アクセスやウイルス、情報漏えいから守る仕事。システムの弱点を調べて対策を立て、攻撃が起きたときは原因を調べて被害を食い止める。
2050年の収入少し上がる -
クリエイティブ 編集者・ライター 本や記事などの内容を企画し、取材や執筆、原稿の編集を通して情報を届ける仕事。読者と目的を考え、事実や表現、権利を確かめ、著者や制作担当と協力して公開まで進める。
2050年の収入下がる
出典と前提
出典
- C2PA Releases Specification of World's First Industry Standard for Content Provenance(C2PA (Coalition for Content Provenance and Authenticity))、2026年11月4日取得
- 令和5年版 情報通信白書(偽・誤情報対策:オリジネーター・プロファイル)(総務省)、2026年11月4日取得
この仕事が広がる前提
- 本物と見分けにくい映像や音声を作る技術が、誰でも使える形で広がる。
- 撮影や編集の来歴を記録する仕組みが、カメラや配信サービスに広く組み込まれる。
- 裁判や報道、取引の場で、真正性を第三者が確かめることに価値が認められる。