食・農 想像の仕事
細胞性食品(培養肉)技術者
さいぼうせいしょくひん(ばいようにく)ぎじゅつしゃ
牛や鶏から取った細胞を大きなタンクの中で増やして食肉をつくる工場で、温度や栄養などの培養の条件を管理し、味・食感・安全を確かめながら量産する仕事になりそうだ。
はじめに
牛や鶏から少しだけ細胞をもらい、それを大きなタンクの中で育てて、お肉をつくる仕事です。細胞がよく育つように温度や栄養を毎日調べ、ばい菌が入らないように気をつけます。できたお肉を料理人さんと一緒に食べて、味や歯ごたえをもっとおいしくする工夫もします。
今ある芽
実証や制度づくりが始まっていて、条件がそろえば広がりそうなものです。細胞を育ててつくる食肉は、シンガポールやアメリカで販売が認められたが、つくる量はまだ少なく、研究所に近い規模の生産が中心だ。日本でも国の審議会で安全性の確かめ方の検討が始まった段階にある。安全を確かめるルールが決まり、大きなタンクで安く量産できるようになれば、食品工場の新しい技術職として広がる可能性がある。
- シンガポールが世界で初めて販売を承認シンガポールは2020年、細胞を培養してつくった鶏肉を使った食品の販売を世界で初めて認めた。研究室の中の技術が、食べものとして売られる段階に進んだ。出典:World first: Eat Just gets regulatory approval for cell-based chicken ingredient in Singapore(FoodNavigator)
- アメリカでも販売が認められるアメリカでは2023年、培養した鶏肉の販売が2社に認められた。国ごとに安全を確かめるしくみが整い始め、つくる人の仕事も生まれ始めている。出典:1st 'lab-grown' meat approved for sale in the US(Live Science)
- 日本でも安全性の検討が始まる厚生労働省の審議会で、細胞を培養してつくる食品の安全性をどう確かめるかの議論が始まった。日本で製造が広がるには、このルールづくりが出発点になる。出典:令和5年12月15日 薬事・食品衛生審議会 食品衛生分科会 新開発食品調査部会 議事録(厚生労働省)
2050年、どんな仕事をしている?
- 培養タンクの条件管理タンクの中の温度、酸素、栄養の濃さを記録し、細胞の増え方に合わせて少しずつ調整する。
- 雑菌混入の検査毎日決まった時間にタンクから液を少し取り、細菌やカビが入っていないかを顕微鏡や検査機器で確かめる。
- 食感をつくる組み立て工程増えた筋肉の細胞と脂肪の細胞を、植物由来の土台に重ねて、肉らしい歯ごたえや脂ののり方を出す。
- 料理人と行う試食評価焼く・煮る・揚げるなどの調理をしてもらい、味や食感の感想を次の培養条件に生かす。
- 安全審査のための記録づくり使った細胞や栄養液、検査結果を製品ごとにまとめ、国の審査や取引先の確認に答えられるようにする。
2050年の一日
2050年、細胞性食品(培養肉)技術者の一日(架空)
試食皿に並んだ三切れの鶏肉は、見た目では区別がつかない。一切れは近くの養鶏場の鶏、残りの二つは、悠真が働く工場のタンクで育った細胞からできている。食品メーカーの技術者になって八年、三十代の悠真は、今日の試食会のために一週間かけて二通りの育て方を試してきた。向かいに座るのは、市内で焼き鳥店を営む料理人だ。
料理人は三切れを順に口に運び、二番目の皿で少し首をかしげた。「やわらかいけど、かんだときに押し返す力が足りない」。悠真はうなずいた。二番目は、筋肉の細胞を育てる期間を短くしたものだ。三番目は、細胞を並べる土台に、細い筋が一方向にそろうよう溝をつけてある。料理人は三番目を指して「これなら串に刺しても形がくずれない」と言った。
午後は工場のタンク室に入った。白い防護服と手袋をつけ、高さ三メートルのステンレスのタンクが並ぶ部屋で、液を少し取り出す。検査室で細菌の有無を確かめるのは毎日の決まりだ。一つのタンクで、栄養の減り方がいつもより速かった。雑菌の反応は出ていないが、悠真は念のため、そのタンクの細胞を製品に回さず、研究用に分けておくことを班長と決めた。
夕方、試食会と検査の記録を一つの報告書にまとめた。使った細胞の由来、栄養液の成分、温度の変化、料理人の言葉。どれも、売り出す前に国へ出す書類の一部になる。帰り際、悠真は二番目の皿のメモに「育てる期間、あと一日」と書き足した。焼き鳥店の名前の横に、来月の試食会の日付も入れておいた。
この仕事に近づくには
今からできること
- 中学理科で細胞のつくりや生き物の成長を学ぶ。料理をしたり、みそやヨーグルトなど発酵食品をつくったりして、食べものが変化する様子を観察する。
- 高校生物と化学を中心に学び、数学で実験データの扱い方を身につける。食品や農業を学ぶ学科のある高校で、食品製造の基礎を学ぶ道もある。
- 大学・専門学校農学部の応用生命科学系や畜産学系、生命科学系や食品工学系の学科で、細胞の培養や食品の安全を学ぶ。食品衛生管理者の資格につながる課程を持つ学科もある。
今から伸ばしたい力
- 細胞や微生物のはたらきを理解する生物の知識
- 温度や濃さの変化を正確に測り、記録する力
- わずかな変化に気づき、慎重に判断する観察力
- 味や食感の感想を、技術の言葉に置きかえて考える力
- 安全のための手順を毎日きちんと守り続ける根気
近い「今の仕事」
この仕事に近いのは、今ある次の仕事です。今の年収や進路は、それぞれのページで見られます。
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食・農 食品開発者 食品メーカーなどで新しい食品の味・食感・保存性・製造方法を設計する仕事。試作品を作って官能評価や成分・微生物の検査を重ね、工場の設備で同じ品質を安定して作れるようにする。食品表示や原価も検討する。
2050年の収入ほぼ変わらない -
ものづくり・研究 バイオ研究者 微生物、植物、動物などの細胞や遺伝子を調べ、食料、医療、環境、素材などに役立つ仕組みを見つける研究者。培養や遺伝子解析、実験結果の再現確認を重ね、論文・特許・製品開発につなげる。
2050年の収入ほぼ変わらない -
食・農 食品工場のオペレーター 弁当、惣菜、冷凍食品などを作る工場で、原料の下処理、調理・加熱、冷却、計量、包装を機械とともに進める仕事。製造条件と衛生記録を守り、決められた品質の商品を出荷する。
2050年の収入ほぼ変わらない
出典と前提
出典
- World first: Eat Just gets regulatory approval for cell-based chicken ingredient in Singapore(FoodNavigator)、2026年11月4日取得
- 1st 'lab-grown' meat approved for sale in the US(Live Science)、2026年11月4日取得
- 令和5年12月15日 薬事・食品衛生審議会 食品衛生分科会 新開発食品調査部会 議事録(厚生労働省)、2026年11月4日取得
この仕事が広がる前提
- 日本で、細胞を培養してつくる食品の安全を確かめるルールと、販売を認めるしくみが整っていること。
- 大きなタンクでの量産が進み、ふつうの食肉に近い値段で売れるようになっていること。
- 消費者が、どうやってつくられたかの説明を受けたうえで、選んで食べるようになっていること。